日本に帰化した方が亡くなると、相続手続きは通常よりも書類集めでつまずきやすくなります。理由はシンプルで、日本の戸籍が「帰化した日」からしか存在しないためです。とはいえ、必要な書類の全体像さえ押さえておけば、手続きは着実に進められます。この記事では、帰化した人の相続で必要書類がどう変わるのかを、広島県廿日市市の行政書士が実務目線で整理します。

帰化した人の相続で書類が複雑になる理由

まず前提として、生まれたときから日本人である方は、出生から死亡までの戸籍がすべて日本国内でそろいます。ところが、帰化した人の日本の戸籍は、帰化が認められた日を起点に作られます。つまり、それ以前の身分関係は日本の戸籍には載っていません。

一方で、相続手続きでは「相続人が誰か」を出生までさかのぼって確定しなければなりません。そのため、帰化前の期間については、本国(母国)の身分関係書類で空白を埋める必要があります。結果として、書類が「帰化後=日本の戸籍」と「帰化前=本国書類」の二層構造になるわけです。

なお、日本の戸籍には帰化の事実が記録され、従前の国籍や氏名、本国での本籍地などが「帰化事項」として記載されます。この記載こそが、本国書類をたどるうえでの出発点になります。

相続の必要書類を確認するイメージ写真

帰化した人の相続で必要な書類の全体像

ここからは、帰化した人の相続で必要書類を具体的に見ていきましょう。大きく分けると、次の3種類です。

① 帰化後:日本の戸籍関係書類

被相続人(亡くなった方)の戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本を、帰化の日から死亡まで連続して取得します。あわせて、住民票の除票(本籍の記載あり)または戸籍の附票も用意すると、住所の移り変わりまで確認できます。

② 帰化前:本国の身分関係書類

続いて、帰化前の期間を本国書類で補います。たとえば韓国出身の方の場合、韓国は2008年に戸籍制度を廃止し、家族関係登録制度へ移行しました。したがって、2007年末までの身分関係は「除籍謄本(旧・韓国戸籍)」で、2008年以降は「家族関係登録簿」の各証明書で確認します。

具体的には、家族関係登録簿として基本証明書・家族関係証明書・婚姻関係証明書・入養関係証明書などを取り寄せます。なお、中国など韓国以外が本国の場合は、その国が発行する出生公証書や親族関係公証書といった書類が同じ役割を果たします。

③ 本国書類の日本語訳

さらに、外国語で書かれた本国書類には、日本語の翻訳文を添付しなければなりません。翻訳文には、翻訳者の氏名を明記するのが原則です。ここは正確さが命であり、続柄や日付の小さな誤りが相続人の確定を左右します。

時期主な必要書類取得先
帰化後〜死亡日本の戸籍・除籍・改製原戸籍、住民票除票日本の市区町村(広域交付も可)
出生〜2007年末韓国の除籍謄本(旧戸籍)本国(領事館・本国の窓口等)
2008年〜帰化家族関係登録簿(基本・家族関係・婚姻関係等)本国(領事館・本国の窓口等)
外国語書類日本語の翻訳文(翻訳者名を明記)専門家・翻訳者

相続する側が帰化した人のときは?

ここで、混同しやすい点を整理しておきます。実は「帰化した人が相続人(相続する側)」の場合と、「帰化した人が被相続人(亡くなった方)」の場合とでは、必要書類がまったく異なります。

相続人が帰化した人であれば、その方自身はすでに日本国籍ですから、現在の日本の戸籍謄本で足ります。したがって、原則として本国書類は不要です。一方、書類が大きく増えるのは、あくまで亡くなった方が外国籍または帰化者であるケースだと覚えておきましょう。

法定相続情報一覧図は使える?

戸籍一式をまとめた「法定相続情報一覧図」があると、金融機関や登記の手続きが一気に楽になります。ただし、この制度は日本の戸籍を前提としており、被相続人の出生からの戸籍が求められます。

したがって、帰化した人(被相続人)の場合、出生から帰化までの期間は日本の戸籍が存在しないため、法定相続情報証明制度は原則として利用できません。そのため実務では、日本の戸籍・本国書類・翻訳文をワンセットにして、金融機関や法務局へその都度提出していくことになります。

なお、2024年3月から始まった戸籍の「広域交付」により、日本の戸籍は最寄りの市区町村でまとめて取得しやすくなりました。しかし、この便利な制度も対象は日本の戸籍だけで、帰化前の本国書類には及びません。制度の詳細は法務局「法定相続情報証明制度について」法務省「戸籍法の一部改正(広域交付)」をご確認ください。戸籍の集め方は相続人の調べ方(戸籍収集・広域交付・法定相続情報一覧図)でも解説しています。

よくある質問(FAQ)

Q. 帰化前の韓国の戸籍は、もう取れないのでは?

いいえ、取得できます。帰化して日本国籍になっても、本国での出生などの記録が消えるわけではありません。したがって、帰化するまでの韓国戸籍(除籍謄本)は残っており、必要に応じて取り寄せが可能です。

Q. 相続税の申告や相続登記に期限はありますか?

あります。相続税の申告・納付は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です(国税庁「相続税の申告期限」)。また、相続登記も2024年4月から義務化され、原則3年以内の申請が必要になりました(法務省「相続登記の申請義務化」)。期限を過ぎる前に、早めの準備をおすすめします。

Q. 書類は自分で集められますか?

日本の戸籍は、広域交付のおかげで比較的集めやすくなりました。ただし、本国書類の取り寄せや翻訳は専門知識が必要で、時間もかかります。まずは全体像から知りたいという方は、相続手続きは何から始める?もご覧ください。

まとめ

帰化した人の相続では、帰化後の日本の戸籍だけでは相続人を確定できません。帰化前の本国書類とその翻訳文まで含めて、はじめて手続きが前に進みます。とはいえ、書類の種類と取得先を整理すれば、決して越えられない壁ではありません。入管業務と相続の両方に詳しい行政書士なら、本国書類の収集から翻訳、遺産分割協議書の作成まで一貫してお手伝いできます。なお、遺言書の有無で手続きが変わる点が気になる方は、遺言書の効力と無効になるケースもあわせてお読みください。

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